私鉄3.0 - 東急ブランドの強さは"まちづくり"によるもの
イギリスから帰ってきて川崎市の鷺沼(田園都市線)に住んでいるのですが、東急沿線は他の私鉄各社よりも沿線住民の東急への愛着がわりとあるような気がしており*1、東急にはブランド力があるなあと感じていました。
そんな折に『私鉄3.0』という本が出版され、読んでみるとこれがなかなか面白かったので簡単にまとめます。
私鉄3.0 - 沿線人気NO.1・東急電鉄の戦略的ブランディング - (ワニブックスPLUS新書)
- 作者: 東浦亮典
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2018/12/08
- メディア: 新書
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記事では自分の仕事に活かせそうな部分のみに絞っているので、会社の歴史やどの街が盛り上がっているかというような内容はぜひ本を読んでみてください。これはこれで面白いです。
本書について
東急電鉄の現執行役員の方が、東急の成り立ちからこれまでのまちづくりにおける取り組み、その過程でのこだわりや工夫を紹介しています。また巻末には、今後の私鉄各社が歩むべき方向性についても筆者の視点で書かれています。
まちづくりが目的、その他は手段
個人的な感覚としては東急 = 鉄道のイメージでした。それは他の私鉄会社でも同様の感覚です。
ところが東急における鉄道の位置づけは、あくまでもまちづくりにおける利便性向上のための手段と記されています。故にまちづくりへの力の入れ方が他社と比較して強く、洗練度合いが高いのが東急の特徴となっているようです*2。
目的がまちづくりとなると、鉄道以外でのサービス展開も必要になりますが、東急はスーパーや不動産、ホームセキュリティ、電力会社など多岐に渡る(社数にすると200を超える)サービスを展開しています*3。
結果、街で生活を営む上であらゆることが東急によって実現されてしまうので、東急というサービスの集合体に信頼や愛着が湧くようになります。
複数のサービスを展開する企業において、
各サービスがそれぞれの世界を実現しに行くのではなく、それらが一つの世界(東急では街)を築き上げることで、顧客の信頼・愛着の向き先は世界(街)となり、またそれを創る企業になる
わけです。
目的の実現が手段であるサービスのブランド力向上に繋がる
東急が手がけるまちづくりによって街の洗練度合いが高いことは前述しました。
それぞれの街が洗練され、そこに住む人たちの街に対する愛着が芽生えると、街の評判が高まります。その結果、その街に位置する駅のブランド力も高まります。
これが各駅で発生するとどうなるでしょうか。
良い駅のイメージが、良い"路線"のイメージに変わります。これが東急線沿線全体のブランド力の源泉となっているようです。
目的の実現が、手段であったサービスのブランド力向上にも繋がっています。
企業としてのブランドイメージの強いリクルートも、各カンパニーが"個人と企業をつなぐ"というミッション(目的)を実現すべくサービスを展開して、結果として各サービスのブランド力が強まっている、という良い例な気がします。
安心安全あってのまちづくり
前項までとは話の筋が異なりますが、本書では渋谷の再開発についても取り上げています。
渋谷の街を歩いていると、高層ビルが乱立していっている表面しか見れないですが、実は地下に巨大な貯留槽を造ったり、歩行者導線を整備しています。これまで渋谷が弱みとして持っていた豪雨による冠水リスクや鉄道各線への乗り換えの不便さの解消を前提とした再開発になっているようです。
目新しい高層ビルを建てていくら体裁だけ整えても、災害に対する脆弱性が改善されていなかったり、それぞれのビルやサービスへの行き来が最適化されていなければ"街"としての価値を最大限に発揮することはできないのです。それは最終的に東急のブランドに返ってきます。
本書では『安心安全と快適便利が同居する街』と表現されていますが、これはWebサービスやアプリを作る我々にとっても肝に命じておくべきことかと思います。
まとめ
- 目的と手段の履き違えは個人的にも常に気をつけている部分ですが、そこさえクリアできればサービスの本質的な改善のみならず、企業としてのブランドの強化に繋がってくる
- 更にそれがサービスのブランド力に返ってくる、という好循環が生まれる
- 安心安全はサービスの価値を最大限発揮する上で必要不可欠
まちづくりを目的に様々なサービスを展開する東急の心構えは、形は違えどお客さまにサービスを提供する方には参考になるのではないでしょうか。